i remember nothing

文章の練習も兼ねています

GRAPEVINEの退屈の花と坂口安吾

はじめに

GRAPEVINEのファーストアルバム、「退屈の花」がある。

邦楽のアルバムで五本の指に入るくらいにはお気に入りである。

高校時代、鳥取ワンマン運転の汽車の中で、部活の遠征帰りのバスの中で、大学に入っても、西池袋を意味もなくふらつきながら、修士論文を書きながら、好きでもない人に告白された飲み会のあとの帰り道で、何度も何度も聞いた。

そんなもう何年も愛しているこのアルバムを、少し紹介してみようと思う。 もちろんサウンドも素晴らしいのだが、今回は歌詞に着目する。

坂口安吾の「恋愛論」

「退屈の花」は全体を通して恋愛をテーマにしているのだが、ここで坂口安吾の「恋愛論」の結びの文を見てみよう。

ああ、孤独。それをいいたもうなかれ。孤独は、人のふるさとだ。恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない。

「退屈の花」というアルバムタイトルはここから引き出されたものなのだろう。

GRAPEVINEのボーカル、田中和将氏はとあるインタビューで坂口安吾好きを公言していたし、ここには意図があることはほぼ確実だと思う。

アルバムの内容と「恋愛論」の関連性

「恋愛論」は短いし青空文庫で読めるので、それを読んだ方が早いと思う。

「退屈の花」の歌詞には、「日常としての恋愛、または性」が深く埋め込まれている。精液臭さすら感じるほどのリアリティにより、却って恋愛がまぼろしであるということを強調しているように感じる。 ただ、まぼろしであるということを「無意味」として語っているわけではない。

ほんとうのことというものは、ほんとうすぎるから、私はきらいだ。死ねば白骨になるという。死んでしまえばそれまでだという。こういうあたりまえすぎることは、無意味であるにすぎないものだ。

坂口安吾「恋愛論」

これが現実なんだ!とこちら側に押し付けて、脱力させようとしているわけではない。むしろ現実に、その瞬間に確かに存在する幸福を幸福として受け止め、不幸を不幸として受け止める、ある意味で非常に誠実なリアリティを持っている。


「1&MORE」で一人称となっている女はどう見ても愚かなのである。相手にばかり求める独りよがりなくせに、裏切られそうになると恋愛の幻想にすがるようなやつである。 すくなくとも歌詞の中の「私」でない、外側の我々にはそう見える。

でも、我々がそうでないと言い切れるのだろうか?独りよがりでなく、恥ずかしくない恋愛をしたことがあるか? 「1&MORE」の女を見ているのとちょうど同じように、内側の愚かな自己を見ることがあるのではないか?

我々の恋愛など、どこにでも転がっている、くだらない幻想に過ぎないかもしれない。

それに気がついてしまうということがある意味で大人になってしまうということなのだろう。

「鳥」が羽根を失っても元には戻らないし、みっともない過去に対してどうすることだってできない。

「永遠の隙間」のように、汗も涙もすぐに乾くようになるのかもしれない。そこでは、色褪せて干からびた退屈な日常に、ただ退屈な性がある。

でも、恋愛というものは、大人になって、バカだと気がついてしまっても、幻だと気がついてしまっても、やめられる性質のものではないと思う。 幻であっても、同時に現実でもあるからである。


恋愛に限った話ではないが、くだらないことを唾棄し、くだらなくないことを見つけることに「意味」はあるのか?むしろ意味がないことが尊く、救いなのではないか?

「君を待つ間」のように、恋愛という柔らかな光に騙されながら、会いたい人を待ち焦がれながら、生きていってもよいのではないか?

所詮人生がバカげたものなのだから、恋愛がバカげていても、恋愛のひけめになるところもない。バカは死ななきゃ治らない、というが、われわれの愚かな一生において、バカは最も尊いものであることも、また、銘記しなければならない。

坂口安吾「恋愛論」

まとめ

人生はバカげている。死んだら全部おしまいだし、「意味」や「価値」なんてつまるところないだろう。それでも、我々はそのバカさを愛していこうではないか。

一見暗くて斜に構えた世界観を持っているバンドとして見られがちなGRAPEVINEだが、実は(少なくとも初期においては)圧倒的なリアリティにより逆説的に救済を歌い熱狂している、そんなバンドなのではないか。

「退屈の花」は一番それを示唆しているアルバムのように思う。

参考文献

坂口安吾「恋愛論」 http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42851_34347.html

GRAPEVINE「退屈の花」 https://www.amazon.co.jp/dp/B00005FQD3/